自然に寄り添うかご作り職人の美しい心を描いた絵本「満月をまって」




絵本の情報

満月をまって

【文】メアリー・リン・レイ

【絵】バーバラ・クーニー

【訳】掛川 恭子

【出版社】あすなろ書房

【ページ数】32

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「満月をまって」のあらすじ

もうすぐ満月になる。

父さんが作るカゴみたいに。

まんまるい満月に。

 

父さんは、次の満月が来るまでの間に、カゴを作って、ハドソンに売りに行く。

満月の日には、帰りが遅くなってもお月さまが道をてらしてくれるから。

 

ぼくは、いつも、連れて行ってと頼む。

だけど、いつもぼくは母さんと留守番だ。

 

ハドソンって、どんなところなんだろう。

ぼくは、考えてみる。

でも、町というのがどんなところなのか、ぼくにはわからない。

 

ぼくたちが住んでいる山は、土地がやせていて、作物がつくれない。

でも、カゴをつくる木はいっぱいある。

どうやって木をきりたおし、丸太にして、家までかついでいくか、ぼくはみている。

どうやって木づちをつかって、丸太をリボンのように、細くうすくはぎとっていくかも、みている。

 

ぼくは9歳になった。

そして満月の日になり、ハドソンへ行く準備をしているとき、父さんが言った。

「いっしょにきてもいいだろう」

 

ハドソンは、レンガと商売のにおいがした。

でも、それと一緒に、くさったようなにおいもした。

川と船のにおいが。

ハドソンでの用事を済ませると、ぼくたちは、ながい道のりを、わがやにむかって歩き出した。

 

広場を歩いているとき、男の人が大声でどなった。

「おんぼろかご、くそったれかご、山んなかのくされっかご!山ザルがしってるのは、それだけだ」

怒鳴った人が笑い、まわりにいた男たちも笑った。

 

家に帰るまで、ぼくの心には、かげがつきまとって離れなかった。

カア、カア、カア。

男の人たちの笑い声がカラスになって、頭のまわりをぐるぐると飛び回っているようだった。

 

家に着いた。

ぼくは、何も食べたくなかった。

ハドソンへなんか、二度といくもんか。

父さんにも、もう行かないでもらいたい。

 

ある日、ぼくはカゴをしまってある納屋の戸をあけた。

「おんぼろかご、くそったれかご」

積み上げてあるカゴを蹴飛ばした。

 

それをビッグ・ジョーがみていたのに、ぼくは気づかなかった。

「風から学んだ言葉を、音にしてうたいあげる人がいる。詩をつくる人もいる。風は、おれたちには、かごを作ることを教えてくれたんだ。」

「風はみている」

「だれを信用できるか、ちゃんとしっているんだ。」

かごを一つ一つひろっては、もとのように積み上げながら、ビッグ・ジョーは言った。

 

それを聞いた途端、ぼくはもうどうでもよくなった。

ビッグ・ジョーや、父さんのようになりたいと思った。

風がえらんでくれた人になりたいと思った。

今から100年よりももっと前のこと、ニューヨーク州のハドソンからそれほど遠くない、コロンビア郡の山間に、かごを作って暮らしているひとたちがいました。1950年代になると、かごにかわって、紙袋やダンボール箱やビニール袋が使われるようになりました。最後まで作りつづけていたひとりの女性も、1996年になくなってしまいました。

山に住む人たちがつくったかごは、丸くて茶色いかごで、これほどのかごは世界中どこをさがしてもないというほど、素晴らしいものです。かごは今でも沢山残っています。博物館に、個人の納屋に。アメリカの民芸品のコレクションのなかに。いつまでも使えるように、丈夫に作られたかごなのです。

著者あとがきより




感想

2003年3月に亡くなった、人気絵本作家バーバラ・クーニーの最後の作品です。

 

木の声を聴き、風のうたを編む。

かご作り職人の美しい心を描いた絵本です。

 

尊敬していた父親の職業を侮辱され、一度は心が揺らいだ少年ですが、ビッグ・ジョーの助言により、ひとにどう思われるかなんてどうでもいいと気づきます。

 

本質を見抜く、見極めることができる人間は、自らを正しい方向に導くことができるのだと、バーバラ・クーニーの描く絵とともに、静かに、けれど力強く語りかけてくれます。

娘にも、大事な決断こそ、迷いなく、自分の意思で選択できる人になってくれることを望みます。

 

5歳の娘には、まだ全てを理解するには難しいかなぁという内容でした。

とても良い絵本でしたので、もう少し娘が成長してから、また一緒に読んでみたいと思います。

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