絵本の情報
かわいそうなぞう
【文】つちや ゆきお
【絵】たけべ もといちろう
【出版社】金の星社
【ページ数】31
「かわいそうなぞう」のあらすじ
上野の動物園は、花盛り。
桜の花が満開になっていました。
お花見の人たちが訪れ、上野動物園は込み合っていました。
像の檻の前の広場には、大勢の見物人が集まっていました。
2頭の像が、芸当の真っ最中です。
そのにぎやかな広場から少し離れたところに、死んだ動物たちをお祀りしてある石のお墓がありました。
そのお墓に眠る、悲しい像の物語です。
日本が、アメリカと戦争をしていたころ、動物園には、3頭の像がいました。
ジョン
トンキー
ワンリー
という名前でした。
戦争が激しくなると、東京のまちに、毎日毎日爆弾が雨のように振り落とされました。
もしも、爆弾が動物園に落とされたら、檻が壊され、おそろしい動物たちが、まちへ暴れだすかもしれない・・・
そこで、ライオンも、トラも、ヒョウも、クマも、ダイジャも、毒を飲ませて殺しました。
3頭の像も、いよいよ殺されることになりました。
まず、一番初めに暴れん坊で言うことを聞かない「ジョン」から始めました。
ジョンは、ジャガイモが大好きでした。
ジャガイモに、毒薬を混ぜて、ジョンに与えました。
けれども、ジョンは、毒が入ったジャガイモだけを避けて食べませんでした。
仕方なく、毒薬を注射することにしました。
ですが、像の身体の皮は厚くて、注射針が折れてしまうのでした。
仕方なく、ひとつも食べ物を与えずにいました。
するとジョンは、17日目に死にました。
続いて、トンキーとワンリーの番が来ました。
2頭の像は、心の優しい像でした。
ジョンの時と同様、えさを与えずに死ぬのを待つことになりました。
2頭は、見回りに行く人を見ると、
「えさを ください」
「たべものを ください」
とせがむのでした。
立つのもやっとの、やせ細った身体で支え合い、2頭は、一生懸命に芸当をしました。
芸をすれば、昔のようにえさがもらえると思ったのです。
子供のように可愛がっていた飼育員は、ついに、えさと水を与えました。
本当はいけなかったのです。
どうしても、この2頭の像を殺さなくてはいけなかたのです。
しかし、動物園に努めている、他のどの人たちも、それを見て見ぬふりをしました。
もしかして、一日でも長く像を生かしておけば、そのうち戦争が終わって、助かるかもしれない。
誰もが、そう思っていたのです。
そのうち、トンキーもワンリーも、動けなくなるほど弱っていきました。
動物園の人たちは、可愛そうで、檻に近づくこともできなくなりました。
ワンリーは10幾日目に、トンキーは20幾日目に、ばんざいの芸当をしながら、死んでいました。
みんなが、像に抱きつきながら、こぶしを振り上げて叫びました。
「せんそうを やめろ。」
「せんそうを やめてくれえ。やめてくれえ。」
感想
「これは、悲しい本だね」
5際の娘が、読み終えたあとに、ぽつりと言いました。
有名なお話ですが、何となくしか覚えていませんでしたので、今回娘と共にあらためて読んでみようと図書館で借りました。
ジョンに毒入りのジャガイモを与えたときに、ジョンがそれだけを食べなかった場面。
「芸当をしたら、餌をもらえるかもしれない。」
そして、バンザイの芸をしながら、死んでいった、2頭の像の場面。
とにかくゾウは賢い生き物なのだなあと、幼い頃に感じた記憶がよみがえりました。
殺さなければいけないのに、餌を与えてしまった、飼育員。
この場面は記憶から抜け落ちていました。
大人になって読むと、そこには人の心の優しさと、切なさが詰まっていました。
きっと、娘の記憶にも残るのではないかと思います。
そして娘も、またいつか、このお話に再会するときが来るのではないかと思っています。
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